ごあいさつ

共生社会システム学会 会長 尾関周二

 このたび、小原秀雄先生、長野敬先生に続き、三代目の会長に選出されました尾関周二です。現在、東京農工大学の名誉教授で、環境や〈農〉の哲学、人間学などを専門に研究してきました。本学会は、人文科学、社会科学、自然科学などの多様な学問の学際的な研究者の協力によって発足し、まもなく学会創立10周年を迎えますが、創立に関わった一人として本当にうれしく思います。
 
 思い起こしますと、20世紀の後半に新たな社会のあり方を目指して、「共生」や「共生社会」が日本発信の理念や構想として様々な論者によって熱心に語られ始めました。これは、地球環境問題に象徴されるような人間−自然関係、宗教対立に象徴される異文化紛争、男女関係や障がい者−健常者の関係など人間−人間関係の問題性を抜本的に解決していくことをめざすものであったと思います。この理念は多くの人々の共感を得て、大学の多くの学部や研究所の名称にも取り入れられました。また、こういった共生理念に中国やドイツや米国などでも共感する人々の動きもあり、私も仲間と一緒に中国の研究者たちとこの共生理念をテーマに日中交流を重ねたことを懐かしく思い起こします。
 
 ところが、この間、新自由主義を伴うグローバル化の急激な進展のなかで競争や成長が一方的に強調され、9.11同時多発テロの勃発による不寛容な雰囲気、さらには排外主義的傾向が強まるなかで、共生や共生社会の語りは少し低調になったといえます。
 
 しかし、こういった傾向が現在も続くなかでも、グローバル資本主義の危うさを露呈させたリーマンショック、さらには2011年の原発過酷事故を伴う東北大震災は状況を一変させたといえます。原発や復興をどうするかをめぐって、日本という国のあり方やその背景にある近現代文明への問いかけを引き起こすことになり、人間−自然関係、人間−人間関係の基本とかかわって今後の社会や国のあり方についてさまざまな議論が提起されるようになりました。こういう状況のなかで、改めて共生や共生社会の理念や構想について真剣に議論する事態が到来したのではないかと感じています。
 
 これまで日本は、「工業立国」「貿易立国」を旗印に経済成長にまい進し、2006年には「原発立国」さえ語られました。それは同時にひたすら、農業・農村を犠牲にして工業化・都市化をすすめていくことでもあり、それよってもたらされた事態が今日の「地方消滅」−「東京一極集中」や〈農〉の崩壊をめぐる深刻な事態であります。
 
 3・11後において、改めて共生や共生社会ということで問題にしてきたことを考えて、未来を切り開くあるべき共生社会を展望するならば、「共生社会」ということでいろいろ語られるにしろ、私は、その重要なポイントは環境保全型農業を基礎にした農工共生社会の構築であり、排除や同化を強制することなく異質さを承認する平等社会ということにあると考えています。つまり、互いの違いを違いとして尊重しつつ、実質的な平等性を実現していくところにあると理解しています。
 
 いずれにせよ、本学会が学際的な学問研究の理論的場であるとともに、実践的な提言を行っていく場として一層発展することができればと思っています。皆さま方のご協力、ご支援をお願いできれば幸甚です。